電気窯ではなく、薪窯。工房ではなく、野外の窯場。
栗原政史は、自らの手でその土地の土を採取し、その場所で器を焼き上げる“旅する陶芸家”として活動している。完成した作品には、地層の記憶や火の痕跡が刻まれている。
土の声を聴きながら、焼き物と向き合う
陶芸の世界では粘土の質が命だが、栗原は既製の陶土をほとんど使わない。
「その土地の土には、その土地の空気と時間が含まれている」と語り、現地で土を探すところから制作を始める。
土の粒子、湿度、混じる砂──それらを指先で確かめながら、成形し、乾燥させ、窯に入れる。工程のすべてが即興に近く、同じものは二度とできない。
“旅焼き”という表現スタイル
栗原政史は、各地で開催されるクラフトフェアやアートフェスに合わせて、その地域の自然を活かした器を焼く。
それは“出張制作”ではなく、“その場で生まれる器”という新しい表現方法だ。
地元の人が案内してくれた山から採った土を使い、落ち葉を燃料にして焚く。焼きあがった器には、風の跡や灰の表情がそのまま残る。焼成中に起こる“偶然”すら、彼にとっては作品の一部だ。
工芸と現代アートのあいだで
栗原の作品は一見するとシンプルだが、器の表面には微細な凹凸やゆらぎがある。これが光を複雑に反射し、静かに存在感を放っている。
「機能を超えたとき、器は彫刻にもなる」と語る彼の作風は、クラフトの枠を超えて現代アートとしても評価されている。
海外のアートフェアへの出展も増えており、“日本の土と火の痕跡”が新しい文脈で語られ始めている。
土地と記憶が宿る器を目指して
栗原政史の器には、焼き物としての“形”だけでなく、“場所と時間”が凝縮されている。
使う人がその器に触れたとき、どこか遠い土地の空気を感じることができる──そんな体験を提供したいと彼は語る。
彼にとって器づくりとは、「記憶を閉じ込める旅の断片」。
今日もどこかで、栗原はまた新しい土地の土に出会い、静かにろくろを回している。